スイス訪問記~
スイス連邦アルガウ州民間保護組織(Civil Protection)取材 第1回

2023年7月17日

先般当協会理事長の池田がスイスを訪問し、スイス連邦アルガウ州の民間防衛組織トップ、国民保護調整部長のMichael Wernli氏と会談しました。数回にわたって、取材の模様をお伝えします。当協会スイス特派員のHans Muller氏によるレポートを交えての長期連載となります。

そもそも民間防衛とは何か?

Civil Defense(市民防衛、民間防衛、国民保護)

みなさん、このマークを見たことがありますか?

このマークはCivil Defense(市民防衛、民間防衛、国民保護)を行う団体や避難所を識別するための国際的な標章となっています。おそらく目にしたことはあっても、どのような意味を持つのか知らない方が多いことでしょう。

有事の際、軍人と民間人は完全に区別され、民間人はこのマークを付けた団体の誘導で避難し、このマークを付けた避難所に避難します。このマークを付けている団体や避難所を攻撃することは国際法で禁じられています。おそらく上記を知らない人も多いことでしょう。

Civil Defenseとは直訳すれば市民防衛。日本語では民間防衛や国民保護と表現されます。国際人道法であるジュネーヴ諸条約第一追加議定書及び第二追加議定書によって規定された概念であり、文民の保護について規定されています。文民は軍人とは全く別に区分され、有事の際は保護されます。日本だとこのあたりの事情がよく理解されていませんが、戦争や紛争にも一定のルールがあり、その枠組みの中で行われます。

時々、民間防衛に無知な人が有事後に核シェルターから出てきたら奴隷扱いや虐殺されるのではないかなどと言っているのを散見しますが、文民は保護されます。核シェルターから出てきた文民を奴隷扱いしたり虐殺したら、戦争犯罪で普通の国だと自国の軍事法廷や軍法会議で裁かれて、刑罰が与えられます。

軍人であっても、捕虜としてどのように扱うべきかがルール化されています。実際に、イラク戦争で捕虜を虐待したとされるアメリカ軍の看守がアメリカ軍の軍法会議によって禁固10年の実刑を受けています。ならず者国家として知られる北朝鮮ですら、ジュネーヴ諸条約と第一追加議定書には加入しています。

日本では市民防衛ですら口にするのがはばかられていたので、戦争にはルールがあること、文民は保護されること、文民保護が国家に課せられているので国は公共のシェルターを準備していることが国民の間での共通認識になっていません。本来は学校教育のプログラムに入れておくべきです。特に人道法は義務教育で教えておくべきです。

発達を遂げたスイス民間防衛のシステム

さて、スイスでは民間防衛の制度が非常に整っています。下記の図のような組織体系となっています。

スイス民間防衛 組織体系

それぞれのレベルに応じて任務が異なります。

  • 1.連邦レベル

    目標設定と管理を行う

  • 2.州レベル

    26の州それぞれにおいて連邦レベルで定められた目標を実施。また、州レベルで民間人保護組織を構築する。

  • 3.自治体レベル

    複数の地区に分けて連邦レベルで定められた目標を実施する。

災害や紛争が起きた場合は、軍、警察、消防、救助隊組織と連携してCivil Protect(市民保護)を行います。各州に設けられた「民間人保護組織」は以下の活動を行います。

  • 1.コマンドサポート(通信、災害地域のマッピング)

    2.(助けを必要とする)人々への救援活動(病院、老人ホーム、養護院、けが人の救助)

    3.文化資産保護(歴史的建造物、博物館、図書館等)

    4.テクニカル・サポート(捜索・救助、社会インフラの維持・保護)

    5.ロジスティック(輸送、救援活動に携わっている人々への食事の提供)

スイス連邦アルガウ州民間防衛組織 市民保護調整部長

スイス連邦アルガウ州民間防衛組織トップ、市民保護調整部長のMichael Wernli氏と当協会理事長池田時浩

核シェルターの管理・運用体系

核シェルターの建設・運用に関するガイドラインは連邦政府の「民間人保護組織(FOCP)」が作成します。各州の政府はこのガイドラインを実施し、実施の状況をモニタリングします。あわせて、住民へのシェルター割当の準備を行います。

各地方自治体は州政府の指導の下で、公共のシェルターの建設、運用、維持・管理の責任を負って、ガイドラインを遂行します。個人のシェルターに関しては、それぞれの所有者が建設、運用、維持の責任を負うことになっています。

たとえば、シェルターの建設を例にとると、まず、連邦政府が出しているガイドラインが存在します。病院やコマンドポストなどの重要施設(耐3バール仕様)はTWS1982、民間防衛仕様(耐1バール)はTWP1984をベースに改訂されたTWK2017などのガイドラインです。

このガイドラインに沿って、州政府の「民間人保護組織」が建築確認を行います。公共の建物に関しては、新規建設時には自治体にシェルターの設置が義務付けられていますが、連邦政府のガイドラインに合致しているか否かの検査は州政府の「民間防衛組織」が行います。そして、完成した後の維持については、公共のシェルターの場合、自治体が責任を持って行うことになっています。

今回はスイスの民間防衛全般について触れましたが、次回以降、核シェルターの点検や備蓄品の管理など、より具体的なシェルターと民間防衛について説明していきます。

日本核シェルター協会
事務局

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